2023.05.20(土)
shoepara編集部 大嶋信之
2023年5月18日(木)イタリア文化会館(東京・千代田区)にて開催された「トスカーナ産イタリア植物タンニンなめし革協会2023イベント『WELCOME TO 2050』 ~君たちを待っていたよ。1282年から~」を訪れました。
本イベントは、イタリア植物タンニンなめし革協会主催のもと、2000年より毎年行われていましたが、新型コロナウィルス感染拡大を受けて、3年ぶりの開催となった。
イタリア植物タンニンなめし革協会に加盟する、トスカーナ地方の19の地元タンナーは、伝統的な鞣し方で現在も良質な革を生産している。
鞣し(なめし)とは、原皮を製品に利用するための革材料へ加工することを言い、化学薬品(鉱物性鞣剤)で鞣す「クロム鞣し」と、天然物質(植物性鞣剤) で鞣す「植物タンニン鞣し」がある。 (参考リンク:「クロム鞣し」と「植物タンニン鞣し」の違いについて)
今回のイベントテーマは、そのトスカーナの伝統的技法で作られる植物タンニンなめし革が、「持続可能な製品」であることを科学的に証明すること。
会場となったイタリア文化会館入り口。
入り口を入るとすぐに、革バッグを持った緑(植物)に覆われたマネキンが展示されていた。
緑(植物)をまとったマネキン。「持続可能」へのメッセージ性が伝わってくる。
緑(植物)の帽子をかぶったマネキンが持つレザー(革)バッグ。
緑(植物)のトップスを着たマネキンが持つレザー(革)バッグ。
美しい光沢のレザー(革)バッグ。
会場には、デザイナーや学生たちの作品が展示されていた。
材料のすべてはトスカーナの伝統的技法で作られた植物タンニンなめし革だ。
写真は、Marie With氏(デンマーク)の作品。(Instagram:@mariewith_studio)
ヒールデザインが特徴的なレディースブーツ。
革の風合いを生かした斬新なデザイン。
Hannah Andergassen氏(イタリア)の作品。(Instagram:@hannah.andergassen)
植物を思わせるデザインのレディースシューズ。
Wout Speyers氏(オランダ)の作品。(Instagram:@wout_speyers)
革本来の風合いをそのまま生かしたメンズシューズ。
パーツを切り離すと、サンダルにもなる面白い構造。
Jennifer Sims氏(イギリス)の作品。
四角いデザインと、円形のデザインのレザーバッグ。
Goncalo Camboa氏(イギリス)の作品。(Instagram:@goncalocamboa)
革の造形が特徴的。
造形のスケッチ画。
Lea Katrin Ellemann氏(オランダ)の作品。
革の造形と模様が特徴的なレザーアイテム。
Mirko Michelacci氏(イタリア)の作品。(Instagram:@mirkelacci)
革に模された模様が特徴的なレザーバッグ。
セミナーにも参加させていただいた。
今回のテーマは、同協会の革が「持続可能な製品」であることを科学的に証明すること。
材料化学の分野で国際的に著名な、グスターヴォ・アドリアン・デフェオ (Gustavo Adrián Defeo) 博士が講師として登壇し、 考古学的発掘物の年代測定に用いられる分析を用いて、物質中の放射性炭素を測定することで、トスカーナ産タンニン鞣しレザーが、他のマテリアルと比べ、どのくらい持続可能な素材かを検証した。
CO2(二酸化炭素)の発生源と、循環の仕組みの説明。
レザーに含まれる炭素には、バイオベース(自然由来)炭素と、石油由来の炭素の二種類がある。
バイオベース(自然由来)炭素を焼却しても、現自然界を循環しているだけなので、CO2(二酸化炭素)を増やすことには繋がらない。
しかし、石油由来の炭素を焼却した際には、現自然界のCO2(二酸化炭素)を増やしてしまうことになる。
現在、有名ファッションブランドやシューズメーカーが持続可能と打ち出し販売している、「ベジタリアンレザー」や「カクタスレザー」などのサステナブルレザー製品のほとんどが、バイオベース(自然由来)炭素が20~30%程度であり、その他70~80%は石油由来の炭素だということがわかった。要は従来の合成皮革とさほど変わらず、CO2を減らすことはできないどころか、焼却処分した際にはCO2を増やしてしまうことになる。
様々なレザーマテリアルのバイオベース炭素含有量比較図。
同協会の革(植物タンニン鞣しレザー)のバイオベース(自然由来)炭素含有量は、「85~100%」と群を抜いてトップクラス。
焼却してもほぼCO2を増やさい循環型で、いかに地球に優しい素材かということがわかる。
ヨーロッパでは、「グリーンディール計画」という2050年までに持続可能中立(CO2を増やさない)を達成することを掲げているが、協会のレザーはすでにそれを達成している。
それに加え、植物タンニン鞣しレザーは、焼却処分せずに肥料に転用でき、その場合、植物の成長を促進させ、よりCO2を減らすことに貢献できる可能性がある。
CO2を排出しないで済むどころか、減らすことに貢献することができる。
また、合成皮革などの石油由来のマテリアルは経年劣化するのに対し、植物タンニン鞣しレザーは経年変化はするが経年劣化しない素材のため、非常に長持ちするうえ修理しながら永く使用することができる製品が多い。結果、破棄されるサイクルが格段に長く、CO2排出量を抑えることができる。
会場の椅子も、イタリア植物タンニンなめし革協会のトスカーナ産レザーを使用している。
質感や光沢感も素晴らしいが、一定の品質を保ちながら劣化せずに長持ちする素材だ。
セミナー修了後、プレス向けの質疑応答の様子。写真右から2番目がグスターヴォ・アドリアン・デフェオ(Gustavo Adrián Defeo)博士。
各メディアからの質問に丁寧に答えられていた。
筆者も、「焼却にまわさず、肥料になることは素晴らしいと感じた、うまくゴミを分別できる良い方法があるのか?」と尋ねると、「靴の場合はパーツによって材料が違うから、まだ難しいだろうけど、うまくバラすことができれば、焼却せずに済む。」など、その他の場合も丁寧に説明いただいた。
セミナー修了後に、展示会場で行われたカクテルパーティ。
イタリア産のおいしいワインが振るまわれた。
会場で撮らせていただいた靴の写真。同協会関係者のイタリアの女性の方の足元。
革に施された模様が特徴的なウェスタンブーツ。
同じく協会関係者のイタリアの女性の方の足元。
ネイビーレザーが特徴的なレディースシューズ。
イタリア植物タンニンなめし革協会 公式ホームページ
https://www.pellealvegetale.it/
■関連記事(過去記事):2019年 トスカーナ産イタリア植物タンニンなめし革協会セミナー『無駄のない消費、よりよい消費』レポート
(文・写真/shoepara編集部 大嶋信之)